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「だが・・不思議と心に残る味ではある。戦乱で荒みきった心にも慈雨の如く染み入る癒しの力。これこそがチョコレイの持つ本来の力なのやもしれぬな。・・・・エドワード・バレンタイン」
「は、はいっ!?」
不意に名前を呼ばれ、狼狽のあまり声が上ずる。
「汝に問う。こことは異なる世界にて目にした穏やかなる平和・・この世界においても実現できると思うか」
先ほどまでの苛烈なものとはまるで異なる、しかし王としての威厳を感じさせる静かな声音。
ビリビリと体に伝わる圧力は尋常なものではなかったが、この問いに対する答えを迷う必要はなかった。
「絶対に可能かと思われます。世界が違えど同じ人間。彼らに出来て我らに出来ぬ道理はありますまい」
「ふ・・言いおるわ」
きっぱりと言い切った俺を小癪と感じたのか、苦笑交じりの表情を王は浮かべる。
そして考えをまとめるように顎に手を当てると、やがてその顔に人の悪い色がほんの僅かに加わった。
「・・そこまで断言するのならば、お主にはもう一働きしてもらう事としよう。なに、依頼を完遂したとはいえ、本来全てを献上すべき品の大半を損なっているのだ。その理由までは問わぬが、我が命を断る理由などありはすまいな」
そう言って空になったチョコレイの小箱をわざとらしくと振って見せる王の姿に、俺は冷や汗をかきながら頭を垂れる事しか出来ない。
降参だ。
敗北だ。
どんな無理難・・失礼、困難な任務を与えられようと、縛り首になるよりはマシだと自分に言い聞かせるしかなかった。
先ほどまでの毅然とした態度をかなぐり捨て、ひたすら白旗を上げまくる俺。
その情けない姿を見て、王様は勝ち誇ったように口角を釣り上げた。
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