第1章

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そんな3か月前までは想像だに出来なかった世界の移ろいを目の当たりにしつつ、俺は大掛かりな旅の準備に忙殺されていた。 あの時、王が俺に科した新たな任務。それは 「再び異世界へと赴き、チョコレイそのものではなくチョコレイの製法を持ち帰る事」 だった。 もっとも、重々しく響くその言葉に深く頭を垂れた俺だったが、無条件に全てを受け入れた訳ではなかった。 何百年も続いている戦いの連鎖がそう簡単に断ち切れるとは思えなかったし、手に入れたチョコレイの製法が和平の為ではなく、結局支配や野心実現の為に使われるのではないかという警戒心も消えなかったからだ。 だがそんな疑惑を払拭するかのように王が取った行動は、俺の中にあったちっぽけなわだかまりを吹き飛ばすのに充分だった。 「仮に争いを止める事が出来てもそれで終わりではない。人や国の間に横たわる溝を埋める為にも、心と心を繋ぐ融和の象徴となる物が必要となろう」 もしかするとこの世界の在り方を誰よりも憂い、誰よりも争いの根絶を望んでいたのかもしれない男の声が耳の奥で甦る。 もし本当にそんな事が実現できるのなら。 心を幸せで満たすあの味わいを、誰もが享受出来るようになるのなら。 あの異世界のように、心のこもった品物を贈り、贈られる事によって国や身分を超えた絆が育まれるのなら。 そう考えるだけで、今すぐ走り出したくなる気持ちを抑える事が出来なかった。
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