第1章

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☆★☆ 「この痴れ者がッッ!!!」 とても1個の人間から発せられたものとは思えない大喝が、謁見の間の空気を震わせる。 チョコレイ探索の命を受けてから3か月。 その間のこの世界における俺の足取り、そしてチョコレイを首尾よく手に入れた顛末は、どうやら王様が自他国問わず緻密に張り巡らせた諜報網によって筒抜けだったらしい。 その証拠に、あの後どこからともなく姿を現した屈強な男達に拉致同然で連れ去られた俺は、当然のように没収されたチョコレイの箱を前に、王への説明を余儀なくされていた。 異世界に渡った事までは知られてはいなかったようだが、この世界のものではない素材、技術によって作られた箱とその中身を前に、シラを切り通す訳にもいかない。 結局洗いざらい話さざるを得なかった俺に降り注いだのが、万人を平伏せしめるに足る王の怒りだった。 それはまさに獅子の咆哮が如し。 嘗て隣国ヴェルジアの名外交官にして、《二枚舌卿》の異名を持つドレイクの舌の根をも凍り付かせた一喝に、居並ぶ武官は顔を強張らせ、気の弱い文官は腰を抜かした。 家臣達が皆色を失い、水を打ったような静寂が訪れる中、期待を裏切られ、苛立ちを隠そうともしない王が玉座の肘置きを力任せに殴りつける音のみが響く。 だがその様子を見た俺は、自分でも不思議な程に心が冷えていくのを感じていた。
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