サクラ

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 逢引。高山に逢引相手とされたモノを振り返り、再度肝を潰した。慌てて、しかし慎重にその相手から手を離す。  白い骨格が非難するかのように、かたかたと乾いた音を立てた。 「すみません。ノート忘れて……」  無表情な高山は、俺の脇を抜けると、実験道具を並べた机からノートを取り上げた。準備室の中は、隣室からの明かりが差し込むだけで薄暗く陰気だ。 「随分と驚いていたようだな」  ノートを差し出しながら、高山はからかうでもなく淡々と、先だっての絶叫に言及する。抜けるように白い肌、シルバーフレームのレンズの奥には濡れたような黒い瞳、瞳と揃いの漆黒の髪――。新任教師のように若く見えるかと思えば、次の瞬間、その物腰は古参の教師のようにも見える。 「そりゃ、暗がりでコウちゃんと抱き合えば誰だって叫びますって」  憮然と唇を尖らせ、恐る恐る横目に標本を覗く。その眼窩がふたたびこちらを見たような気がして、思わず背筋が震えた。 「コウちゃん?」 「ああ、なんか先輩とかみんなそう呼んでたから」 「どうしてだろうね? この人はサクラというんだ」  咄嗟に何を返すべきか躊躇した。これも冗談なのだろうか。しかし教師の無表情からは、冗談の軽さは見て取れなかった。  俺の脳裏に、定番の怪談が思い起こされる。学校の七不思議など、誰が最初に言い始めたのだろうか。その中にはコウちゃんにまつわる怪談もあった。  コウちゃんの骨は本物の人間の骨でできている――。 「高山センセは怖くないんですか?」  なぜかサクラについては聞くことができず、話を逸らした。思えば辞去の挨拶をして、その場を去ればいいだけのことだったのだ。なのに、俺はそのことに思い至ることすらできなかった。 「怖い? どうして?」  高山の細く長い指先がサクラの肩に触れる。それはまったく同じ白色で、骨と皮の境がどこなのか、薄暗い中では判別しづらかった。 「だって骸骨っすよ?」  体内の恐怖を払拭するため、俺は殊更声のトーンを上げた。  高山の目がジッとこちらを見る。まるで何かを見透かすかのような……。 「キミの中にも骨はある」 「それは――」 「僕の中にも……全ての人間には骨が入っている」  高山の指が、標本の肩から鎖骨、胸骨と滑るように撫でていく。それは柔らかく軽やかで、まるで愛しい恋人にでも触れているかのようだ。
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