バレンタイン

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桃華を落ち着かせるから、と二階へあがった美百合を見送って、龍一は、 「さて――」 床を見下ろす。 さっきタンスの上から落ちた弾みで缶の蓋が開いて、中に入っていたチョコやクッキーがフローリングの床に散乱してしまっている。 「……」 砕けて粉になっているのもあるし、チョコレートなんか床にベットリだ。 このままでは足の踏み場もない。 龍一は軽くため息をつくと、掃除機を持ってきて床の掃除を始めた。 拭き掃除をしたら、今度はくすみが気になって、思わず床にワックスまでかけてしまう。 幼児がいる家なので、天然素材のワックスを使うなど、もちろん気配りも完璧。 龍一はやることにソツがない。 そして、龍一がそんな細々とした作業を終えても、美百合はまだ二階から降りて来なかった。 ちょっと音をたてて階段をのぼって、夫婦の寝室のドアを開けてみると、美百合は桃華と一緒にベッドで寝てしまっている。 このところ桃華の夜泣きがひどくて目が離せず、美百合は疲れているのだ。 このまま寝かせてやってもいいのだが、 「……」 いま桃華は、泣き疲れてぐっすり眠っている。 こんなチャンス、滅多にない。 桃華に振り回されっぱなしの毎日で、夫婦の会話もついでに営みも、最近とんとご無沙汰だった。 せめて……。 龍一はそっとベッドに忍び寄ると、美百合の頬を突っついてみる。 昼間からセックスとまでは言わないが、たまには会話の時間を持ちたいと思った。
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