10/38
前へ
/900ページ
次へ
 夕食を整えるため台所へ向かい、ダイニングテーブルのイスの背にコートをかける。 無造作に放ったコートの袖が、テーブルの上で紙のようなものにガサリと触れた。 テーブルの上には重ねられた紙が数枚と、紙を押さえる感じで小箱が置かれている。 紙の小箱にはハートマークの可愛いラッピングが施され、一見したところ菓子のようだ。 ――ああ、今日はバレンタインデーだったっけ。  優子は気付いてため息をつく。  ドコの誰とも知れないが、夫と居る今の女が贈ったものだろう。 甘い物が苦手で薄情なあの男は、女からもらったバレンタインデーのチョコをごみ箱に捨てる代わりに、放置している古女房への手紙のペーパーウェイトとしたのだ。 一枚目の紙は汚い字で書かれた手紙、そして二枚目は夫の名前が記入済みの離婚届だった。
/900ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1465人が本棚に入れています
本棚に追加