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「はい。友達初心者の夏葉 繁(なつは しげる)です」
わざわざ「友達初心者」と付け加えたのは、あえてツッコミを入れて貰ってこの場を和ませようとした僕なりの気遣いだったのだが、「夏葉くんって言うのね。雅と仲良くしてくれてありがとう」とスルーされた。
「いいえ。いつも雅さんにはお世話になっています」
少しでも好印象を持ってもらうためにも、丁寧にお辞儀をすると、今度はベッドの方から、ゲラゲラと大きな笑い声が聞こえた。
「何畏まってんのよぉ~。うちのママ、怖くないから大丈夫だよ」
病室の前で聞いた不機嫌な声とは違い、いつも通りの明るい彼女に戻っていることにホッとしていると、「あのコ。ここでもこんな笑顔を見せるのね」と目を細め、静かに、それでいて、嬉しそうに呟く母親は、いきなり僕の両手を握った。
「あなたのお陰ね。ありがとう」
少し目に涙を浮かべる母親の表情に、ほんの少しだけ不安を感じ、胸がザワリとした。
それでも、僕と自分の母親だけが喋っていて、自分だけ蚊帳の外といった雰囲気が気に食わないのか、「ちょっと、夏葉くんっ! 私のお見舞いに来てるんでしょぉ? ママとばっかり喋ってないでよね~。私、今日もこんなに元気なのに何にもすることなくて暇してたんだからさぁ!」と喚く雅のお陰で、そんな気持ちもすぐに弾けて消えた。
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