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知り合ってからまだ数日。
明後日には、彼女は退院するのだが、僕はその後だって彼女と一緒に過ごせるのであれば過ごしたいと思っている。
彼女が何か悩みを抱えているのであれば、少しでも気持ちを楽に出来るよう、力になりたい。
そう思うよりも先に、僕の口は動いていた。
「どうしたの? 何が見えるんだい?」
静かな問いかけに彼女は振り向くことなく、小さく唇を動かした。
「桜――好きなんだよね」
フッと口元を緩める彼女に「僕もだよ」と答えた後で、言葉を続けた。
「この並木道、春になると満開になるし、一緒に歩こうよ」
「……そうだね」
少しの間がやけに重々しく感じるのは僕だけだろうか?
殺風景な並木道から僕の方へとゆっくりと振り返った彼女は、「そこに写っている桜ってね。日本から持っていった苗木を植樹したものなんだって」と言って、写真集を渡せと目で合図した。
素直に彼女に手渡すと、一枚一枚大切そうにページをめくりながら、「環境が変わっても、元気に育つものなんだねぇ」と、のんびりした口調で話す彼女に、「そりゃそうだろ。植物だって生き物なんだからさ。生きたいっていう強い気持ちがあるんだ。だから生きていくために環境に適応しようとするさ」と返事をする。
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