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「そりゃ、土も水も。周りにある植物だって全く違うんだ。まだ成長しきれていない苗木にとっちゃ、最初は戸惑いもあっただろうし、栄養や水だって足りなくて辛い思いをしたのかもしれない。けどさ、精一杯生きようと頑張った証が、この桜並木なんじゃねぇの?」
彼女の手元で開かれているピンク色の景色を見て俺は率直な感想を述べただけ。
けれど、その言葉が彼女の心の何かに触れたのであろう。
僕の顔をジッと見つめ、「そっか! そうだよね」とまるで花が開いたかのような笑顔を見せてくれた。
「うん。夏葉くん。絶対、桜並木を一緒に見よう!」
いきなりギュッと手を握られた僕は、赤くなった頬を彼女に見られないように顔を背けつつ、「一緒に見ようじゃなくて、僕は一緒に歩こうよって言ったんだけど」と、訂正した。
「あははは。そうだよね。うんうん。そうだよね」
目尻に涙をためて、何度も嬉しそうに頷く彼女を見て、僕は彼女ももしかしたら自分と同じ気持ちなのかも――――と、淡い恋心を色づかせていた。
翌日。
まさか、彼女が忽然と姿を消し、白く無機質な病室のように、僕の頭の中までもを真っ白にさせてしまうだなんて、その時は夢にも思わなかった。
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