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「うっ……さぶっ」
マフラーに顔を埋め、ズボンのポケットに両手を突っ込む。
季節は二月下旬。
寒さのピークは過ぎ、一雨ごとに春の訪れが近付いて来てはいるものの、それでもまだ、風は冷たい。
家から学校までの間に通る並木道は、東西に真っ直ぐ伸びており、西から吹き抜ける風を妨げるものは何もなく、真正面から僕に体当たりをかましてくる。
「あれ?」
風を避けるため、俯き加減でいた僕の足元に、薄いピンク色をしたものが舞っているのが目に入った。
思わず顔を上げると、僕は自分自身の目を疑った。
「桜吹雪……」
まるで花の終わりを告げるように、数多の花びらが風に流されている景色が広がっていた。
慌てて周りを見渡す。
道の両側に立ち並ぶ木々は全て桜の木。
けれど、そのどれにも花どころか蕾一つすらついてはいない。
当たり前と言えば当たり前のことなのだが、それでは自分がみているこの光景は一体何なのだ?
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