恋文

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陽射しが強くなり、風すらも生暖かく、額に汗が滲みはじめます。 遊歩道には春の賑わいを見せていた人混みは跡形もなく消え去り、日々に追われる人々が、ただ、通り過ぎて行きます。 木陰となるベンチにはあなたの姿はありません。 空いていたあなたの隣に座れば良かった……思いきって声をかければ良かった……そうすれば僅かでもあなたを近くに感じられたかもしれない。 そんな勇気などありはしないのに、そんな考えが掠めて消えて行きます。 ただ見詰めていただけ。 ただ同じ場所にいただけ。 私はあなたに会いたい。 あなたを知りたい。 そう思ってみてはいるものの、もう何日会っていないのでしょう。 見ず知らずの私が想いを寄せているなどと思いもしないのでしょうね。 もう、会う事はないのでしょうね。 目の前のベンチには誰も座りません。 同じ時間、同じ場所に私はいまだに通っています。 私はそっと芽吹いた想いを抱いて、季節の移り変わる様をこの場所で眺めています。 いつかこの想いが消えてしまうまで───
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