恋文

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翌日も、その翌日も、私はあなたに会うために桜並木の遊歩道へと足を運びました。 会える確率なんて導き出されないのに、同じ場所に居るはずもないのに。 名前も、素性も何も知らないあなたを探して、時間の許す限り通っていました。 すると、可笑しな事にあなたは同じ時間、同じ場所に現れました。 初めて見掛けた時と同じように小説を手にして、同じベンチに腰掛けて、あなたは静かに文字を追います。 私とあなたの触れ合う事のない、静かで穏やかな時間が流れました。 私にはその僅かな時間がとても大切な物でした。 変わらず人の多く行き交う隙間から、ピンク色の花弁の間に新緑の芽が芽吹いても、あなたを追って、あなたの真似をして、まともに読みもしない小説を手に、文字を追う振りをして座っていました。 ……時は流れて行くものです。 満開となった桜の花弁は風に押されてヒラヒラと地に落ちて行きます。 樹の枝が淡いピンクから緑に染まり、さわさわと音を奏でます。 あなたを見掛ける事が少なくなって行きました。
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