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いい手袋だった。
ありがとね。
暖められた保健室で、膝の痛みは酷かったけど、あたしは一人でニコニコしていた。
この子達が破れたってことは、あれから一度も出会わないあの男子のことも忘れろってことかな、などと思いながら。
だけど、それも仕方ないかもね、なんて思えたのだった。
土曜に特別に開かれた授業の1時間目をそうやってサボり、2時間目からは気持ちも新たに出席した。
「大丈夫?」
大げさになってしまった膝小僧を見て友達も心配してくれる。皆いつもより優しい感じだ。うーん、これが怪我の功名か!?と思った。
先生の言う通り、確かに今日のついてないことはお終いかもって。
「ミトンが破壊されたわ~」
見せると、うわ~と同情の声まで上がる。よしよし、君達の働きは彼女達にもちゃんと宣伝しておいたからね、とまたナデナデしておいた。
彼氏が出来てから急激に付き合いの悪くなった美沙緒がしげしげとミトンを眺めながら言う。
「チャコが毎年作ってるやつだよね?今年はこればっかしてたね、そう言えば。お気に入りなの?」
チャコとはあたしのあだ名だ。比佐という名前を幼少時発音出来なくてチャーと言っていたのから親がチャコと呼び、そのままあだ名になった。
美沙緒は小学校からの友達なのでそのあだ名で呼ぶ。
だからあたしが毎年秋にはミトンを編むことを知っていた。そして、いつものあたしなら4種類くらいは作って毎日とっかえひっかえしてくることも。
それが今年はこれしか見てないよ~、とは、恐れ入る。さすが、女友達の目は細かい。
あたしは曖昧に笑った。
「・・・うん。気に入ってたからヘビロテだったねー」
「綺麗な配色だもんね。チャコの浮気癖がなくなったのか!」
「ちょっとやめてよ、誤解を生むような発言は。誰が聞いてるか判らないでしょうが」
あたしがぶーたれて文句を言うと、美沙緒の隣から由紀が微笑んで口を挟んだ。
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