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今から考えたら今日は怪我したから勘弁してくれ、と思ったけど、朝の保健医の先生の言葉が魔法をかけたのか、数学教師の田植先生はあたしの怪我を見て解放してくれたのだ。
先生は、あたしを見るなり一言、うわあ~、と言って、両腕を組んだ。
何だ?あたしが見ていると重々しく口を開いてこう言う。
「ちょっと重いもの運んで貰うつもりだったんだけど、先生は鬼じゃないと証明するために言おう。今日はいいから、帰りなさい」
うっそー!ラッキー!!ありがとうございます!とあたしは勢いよく頭を下げて、数学準備室を後にした。
廊下もしんしんと冷えていて、何だか心細くなる。
これなら皆に待ってて貰ったらよかった、と思いつつ一人で靴を履きかえる。
すると、まだ残っていた他の生徒の歓声に気がついた。
「―――――――あ」
雪だ。
厚い雲が一面覆っている空から、白くてヒラヒラしたものがどんどん落ちてきていた。
そりゃ冷えるはずだよね・・・。
鞄から出して、破れてしまったミトンを見詰める。
・・・全然ないよりは、マシ。よし。
一人で頷いてミトンをもう一度両手にはめた。破れてない部分だけでも手を温めて貰おうと思ったのだ。
「さっむ・・・」
痛んで嫌がる足を叱咤激励して歩き出す。ちょっとびっこを引くみたいになっていたから、これでは田植先生も帰宅を促すはずよね、と苦笑した。
雪の降る中、ゆっくりと歩く。
朝は強かった風は絶えていて、それが救いだった。
風がないから雪が真っ直ぐに落ちていた。その白い点々の中をあたしは無言で歩く。
ポケットに突っ込んでいた右手をだしてみると、破れたミトンの丁度その場所にも雪が落ちてきた。
直接肌に当たった雪はすぐに解けて水になる。
あたしはつい立ち止まって、それを見ていた。すると、ミトンの破れた箇所からほつれた毛糸が気になって仕方なくなった。
・・・・これ、引っ張りたい。
引っ張ったら解けることは勿論判っている。
寒いし、雪。早く帰るべきだ。解きたいなら家でしろ。自分で突っ込みすらした。
だけど痛む足で雪の降る中立っていて、何故か今それをしなければ、と腹の底から思ってしまった。
儀式みたいに思ったのだ。
この子達を、解放しよう、みたいなことをうっすらと考えた。
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