3、あたしと彼とふわわ

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 彼は寒さで鼻と頬も赤くして、片手で拾い上げた毛糸のそれを持ち、もう片手であたしを指差していた。 「あんた、ふわわを持ってた人。寒いから、取り合えず行こうぜ」  そう言うと歩き出す。  彼の靴が冷えた土を踏んでざくざくと音を立てた。  あたしは目を丸くして彼の背中を見詰める。  ふわわの人?・・・って、あたしのことですか?行くってどこへ?あなたと一緒に?  ごちゃごちゃと頭の中で疑問符が踊る。  冷えた体はそうすぐには言う事を聞かない。  でも少し先に進んで振り返った彼が、こっちをじっと見ているから、仕方なく懸命に足を動かしてみた。  ゆっくりと、進む。 「・・・あんた、怪我してるの」 「今朝転んだんです」  ふーん、と言いながら大げさに保護されたあたしの右ひざを見ていたけど、びっこを引くあたしのペースに合わせて歩き出した。  ・・・どこに行くんですか。  心の中でそう思ったけど、口に出しては聞けなかった。  突然想い人が出てきてくれて呆然としていたわけではない。  ただ体が冷え切っていて、現実をよく判ってなかったのだ。正直に言うと感覚が麻痺していて、どうでも良かった。  そのままゆっくりとあたしに合わせて歩き、彼があそこと言ってドアを開けたのは高校から一番近いファミリーレストランだった。 「二人」  係りのお姉さんにピースをしてみせ、案内される。  温かい店内に入った途端、自分がどれだけ冷えていたかが判って驚いた。凍えて固まっていた体の隅々が呼吸をし始めたみたいだった。  4人掛けのテーブルに二人で座り、彼は無言のまま鞄から出したタオルで濡れた頭やコートの肩を拭く。  雪が解けてびしょ濡れなんだ、とあたしも気付き、彼にならってタオルを出して拭き出した。  暖房が緩やかに店内を回る。その温かさに、あたしはほ~っと息を吐き出した。  ・・・ああ、温かい・・・。 「何する?」  顔を上げるとメニューを指差して彼がこちらを見ている。・・・そうか、注文しなきゃだよね・・・。  あたしはまだかじかんでいる指でメニューをめくる。お腹、空いた。壁の時計はもう午後の1時を指している。
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