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すると、前の男が言った。
「・・・あんた、美味しそうに食べるな」
あたしはちょっとホッとする。ああ、良かった。変な女だなって言われたら凹むところだった。
安心した気持ちに力を借りて、言葉を押し出した。
「だって美味しいもの。・・・あたしは真部比佐って言うんです。あんたじゃなくてさ」
彼の低い声は心地よかった。だから実際のところ、あんたであっても構わなかった。あたしを呼んでくれるなら。
だけど熱々のラーメンと温められた店内のお陰で、あたしは普段の自分を取り戻しつつあった。
だからちょっと頑張ってみる気になったのだ。
・・・・君の、名前を教えて?
そう願いを込めて、前に座ってラーメンを食べる男子を見る。
彼は丼越しにちらりとあたしを見て、お箸を置いてから、ふーん、と言った。
「・・・大貫亮平、1年8組」
「え、1年?ホント?年上かと思ったー」
あたしが身を引いて驚くと、彼はちょっと鼻に皺を寄せてふんと鳴らした。
「どうせ老けてるんだ、判ってる。あんたも1年だろ」
「真部比佐だってば。そうだよ、あたしは1年2組。・・・どうして判るの?」
あたしの問いに彼はにやりと笑った。意地悪そうな顔をして。
「―――――幼いから」
ムカッ!あたしは口を尖らせて、それからどうせあたしは童顔ですよ、と呟いた。
・・・8組かあ~・・・。遠いな。そりゃ今まで会わないはずだよ。移動教室でも全然関係ないクラスだったわけか。
いつの間にかラーメンはなくなっていた。そして、体も温まっていた。
言い合いをしたことで気分も解れたあたし達は、どうせだからとドリンクバーの注文をしなおし、それぞれが飲み物を取りに行って、改めて向かい合う。
「ふわわ、どうして解いたの」
大貫亮平と名乗った彼がまた聞く。あたしはホットのカフェオレ両手で包んで持ち、今朝の転んだことを詳しく話した。
「コンっと石に引っかかっちゃって。久しぶりに転んだよー」
「・・・痛いよな、冬に擦り傷作ると」
「そうそう、皮も突っ張っちゃってるしねえ」
「で、手袋にも穴が?」
「そう、泥で汚れちゃったし、もう仕方ないと思って」
一口飲んで喉を湿らす。入れた砂糖が甘くて、舌の上で広がった。
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