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「ほら、ふわわ」
「へ?」
反射的に聞き返したあたしに向かって、彼は少しだけ、口の端を持ち上げて笑顔のようなものを作る。
そしてまた言った。
「ふわわ。綺麗な色だけど、毛糸って、案外風通すよな」
そしてあたしの手の平にのせたミトンをポンポンと軽く叩くと、そのままするりと横を通り抜けて行った。
あたしはつい振り返る。
・・・ふ、わ、わ・・・?
手のひらのミトンを見た。・・・これ、普通は、もこもことかさあ・・・もしくはふわふわとか・・・じゃない?ふわわって・・・。
自分で作ったお気に入りのミトンは、緑に黄色のグラデーションで確かに綺麗な色だ。自信がある。そして、毛糸で編んだから、確かに風を通す。そりゃあ革製品には敵わない。
だから、これのこと、だよね。
ふわわ。
頭の中でその単語が回る。
あたしはしばらく寒さも忘れてその場に突っ立っていた。学校は目の前で、件の彼の後姿はとっくに門の中に消えていて、ちょっと変な学生になってしまっていた。
チャイムの鳴る音で現実があたしに戻り、ダッシュで校門に飛び込んだんだった。
寒さで顔は赤くなっていたし、走ったから鼓動もドクドクとうるさかった。
だけど気付いていた。
この赤いのは・・・そしてこのドキドキは!!
・・・ふわわの、男子のせいだって。
言葉の響にとても惹かれた。
とろんとして柔らかいその響に。
この凍てつく寒い朝に、ほわほわと温かいものがじんわりとひたひたと心に沁み込んで来たのだ。
あたしは両手で熱くなった頬を包む。
・・・おお~!
そう思った。
おおお~!!って。
自分がまるで可愛い女の子になったようで居心地が悪くてトイレの個室でジタバタと暴れる。
待って待って、ちょっと落ち着いて深呼吸だ。
昼休みは寒くて寒くて寒い屋上へ行こう。
一人でそう決心する。
そして温まった体と心を落ち着ける必要があるよね。ちょっと今のあたし、おかしい。
・・・いや、でも廊下でいいか、十分冷えてる。屋上まで行ったら風邪ひくかもしれない。
制御出来ない淡い気持ちに挙動不審のままでどうにか午前中を過ごした。
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