1、飛んでいったふわわ

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 移動教室があるたびに、あの男子生徒を目で探す。  だけどマジマジと見詰めたはずの彼の顔は、既に記憶の中でぼやけつつあった。  一度も見たことない男子で、このマンモス高校は1学年が9クラスもあるのだ。それが3学年分。そして約半分は男。  一日にすれ違うだけでも大量の学生だ。それを一々目で確認していたら眩暈に襲われた。  ・・・ああ~・・・駄目だ。もう判らなくなってきた。  昼休みになる頃には、たまたま出会った男子生徒にもう一度会いたいと思うのはこの学校では現実的ではない、と諦めていた。  明日の朝、もう一度今日と同じ時間に校門前をうろついてみて・・・それで会えたら・・・靴箱まであとをつけて・・・それで学年と名前が判れば・・・。  口元に片手を押し当てて一人で唸る。  ・・・あたし、彼が判るかな。  もーの凄い、基本的な問題だ。  もう既に顔はぼやけてしまっていた。うーん、もうちょっとよく見ておけば良かったあ~・・・。いやでもまさか気になるなんてその時には判らないしな。  とにかく、ちょっと茶髪だった。地毛かな、あれくらいだと。夏に焼けちゃった、程度の茶色だったもん、多分。それにつんと尖った鼻をしていたような・・・気がする。  上から降って来た柔らかい単語の響だけをいやにハッキリ覚えていて、それを発した本人の記憶が曖昧で凹んだ。  ああ・・・これだから今までの恋愛も上手くいかなかったんだな、あたし。  詰めが甘いのか!  そんなわけで、せっかく心と体を温めてくれたその出会いを思い出すだけで、あたしの毎日はするすると過ぎて行った。  しばらくは同じ時間帯に登校するようにしてみたけど、彼だ!と思う男子生徒には会えなかった。  ・・・か、会っていても判らなかっただけなのか。それもあるかもしれない。特に一目を引く外見とか、頭が一個分出てる長身だとか、奇抜な格好をしていたわけではないのだもの。  普通の、登校中の、男子生徒だった。制服に学校指定のコートに、黒いマフラー。確か柔らかい茶髪、そして鼻が高め・・・そんな程度だ。
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