1、飛んでいったふわわ

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「もう、あんたどうして家でごろごろしてるのよ!?彼氏くらいいないの!?」  ・・・おお、それを言っちゃうのね、ママったら。  あたしはコタツのテーブルに片頬をつけたままで母親を見上げてだら~っと言った。 「そんな上等なもの、いるわけないじゃん。あたしはママの娘だよ」 「ママの娘ならいるはずよ。ママが16歳の時は彼氏いたもの!」  ぐさ。  掃除機を持って威嚇する怪獣ママゴンは、コタツで休む比佐ヌスに精神攻撃をかました!比佐ヌスはHPが50下がった!  頭の中で実況中継が勝手に流れる。あたしがうんざりしながら撃沈していると、ママゴンはまた攻撃する。 「彼氏でなくてもいいのよ!せめて友達と遊んで来なさいよ!邪魔なのよ!」  ぐさぐさ。 「・・・友達は彼氏と初詣・・・」  母親は一瞬黙ったあと、盛大にため息をついた。 「――――――とにかく、邪魔よ!どいてどいて!」  比佐ヌスは居間から追い出された。スルーとため息と居た堪れないその空気とで、HPとMPがそれぞれ30下がった!  また頭の中を勝手に流れる実況中継を手を振って自分で消し、あたしは自分の部屋へ退散した。  ゲームのしすぎだ、あたしのバカ。  そんな感じで毎日うとうとしながら親に怒られながら弟と下らない喧嘩をしながら、グダグダ~っと休みを過ごした。  唯一ハッキリとあたしの心を占領していた例の男子生徒は、顔もおぼろげ、全く情報なし。でも、まだあの響だけは覚えていた。  眠りながら繰り返す。頭の中で甘く金色の蜜を作り出して、現実をとかしてくれるようだった。  ほら、ふわわ。  ふわわ。  すると自然と笑顔になる。あたしはくふふと笑う。作り直すことも考えたけど、結局そのまま洗濯だけをしたミトンを胸に抱いて夢の中に浸っていた。  彼の言葉が蘇る。  『毛糸は温かいけど、案外風通すよな』  『うん、そうだね。風通すよね。でも気に入ってるんだ、この配色が』  実際にはあの時呆然としていたけど、夢の中のあたしは過去の彼と会話する。  『自分で作ったんだよ。だから、気に入ってるの。寒くても、これでいいの』  顔も思い出せない彼はにっこりと笑う。あたしもミトンを手にのせて、ふふふと笑うのだ。  それを想像して、柔らかい時間の中に一人でまったりと浸っていた。
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