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翌日、遅めに出仕した魔術師団長カイン・リューバーは異常を察知した。
張った結界に外部からの侵入の形跡はない。
それなのに違和感が拭えない。
「団長、お早うございます」
「ああ、明け方まで強風が続いたな。宿直のフランとジャックは防御魔法のチェックで疲れただろう。今日は非番のはずだったな。寮の方に回服薬を届けさせよう」
「いえ、それが二人とも……」
副団長に促されるまま談話ルームへ足を運べばそこには。
「……て、てんし」
「き、きせき、きせききせききせき」
病気のオウムのように繰り返す二人がいた。
変わり果てた姿に団長は周囲を警戒する。
何らかの精神攻撃を受けたのかもしれない。
さもなければ疲労の極致。
宿直の体制を見直すべきか。
「セルジオ」
「団長、大丈夫です。敵からの精神攻撃はありません。疲労でもありません」
団長の懸念を正しく汲み取って副団長は答えた。
「しかし強力なのは間違いありません。」
「呪いの類いか」
理論的に術式を組み立てる魔術に比べ精度は落ちるが呪術も形を変えて民間療法などに残っている。
「ある意味そうですね。明け方頃に、来訪者がありました。彼らは報告書を作成して、あとは食堂が開くまで寝るだけだったのですが」
「誰が来たんだ」
「若い侍女です」
団長の眉が上がる。
「何か盛られたのか」
「なぜそうなるんですか。差し入れのスープと芋の煮物を置いて、すぐに帰りました。私も立ち会いましたし、中身もチェックしました。普通に美味でしたよ。あ、保温魔法かけておいたので団長もどうですか」
「しかしなぜそんな普通の食事で二人はあんなふうに腑抜けているんだ?」
「それは、まあ、資料でも目を通しながらどうぞ。どうせ朝からコーヒーしか飲んでないんでしょ」
湯気のでる器が置かれた。
とたんに胃がトゥクン……!とときめいた。
クリームスープ
ジャッカ芋とベーコンの煮物
(なんだこの匂いは……!)
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