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「伸、電話してみてよ」
「お前がしろよ」
「いいから、さぁ」
「…ったく…」
奏人が誘いたいのだから奏人が電話すればいい。そう思うが奏人は恵実のこととなると奥手でからっきしダメなのだ。
高校に入学して出会ってからだから片思い歴も2年になる。
伸に接近してきたのだって、恵実と近づくための口実だったんじゃないかって勘ぐってしまう。まぁ今となっては一番仲のいい友だちなのだからきっかけはもうどうでもいい。奏人はイイ奴だ。
伸にしてみれば恵実は物心ついた頃から一緒にいた存在。母親同士が友達だったこともあり恵実の両親の洋食屋でよくご飯を食べさせてもらった。洋食ばかりでなく家庭料理なんかも。
小学校時代、中学校時代と恵実は男子からも女子からもよくモテた。
サバサバしていて小事にこだわらない。ショートカットで男勝りの性格。あまり人のことを嫌わず悪くいわない性格なので、逆に人からも好かれているようだ。
伸に対しては恵実も異性としての意識がないのか高校生になっても「勉強教えて」と夜だろうと家に押しかけてくる。ジャージ姿で。
そんなこともあってか伸としては異性という感覚がもてない。
PuPuPuPu…
「…何?どうしたの?」
電話からそっけない恵実の声。
「なぁ、今日、お店?」
「今日は加奈子さん来る日だからお店じゃないよ」
加奈子さんは洋食屋でアルバイトをしている女子大生。週に3,4回のペースで働いている。
伸は加奈子の顔を思い浮かべると心の温度が少し上がる。
「奏人がさ、4月から視聴者参加型のクイズ番組があるからやらないかって」
「奏人君、クイズ番組好きだもんねぇ」
「あぁ、スマホで参加するんだってさ」
「へぇ…いまどきの番組って感じ」
「でさ、サイトがあって事前エントリーしててさ。デモプレーができるんだ。今日6時半くらいとか、来れる?奏人がやろうって」
「うん、大丈夫」
逡巡(しゅんじゅん)する間もなく答える恵実。
「じゃあよろしく」
………
「やったぁ~」
通話を聞いていた奏人がつぶやく。
こんな簡単なことなんだから自分で電話すればいいのに。
そうは思うが、奏人が素直に喜んでいる様は伸にとっても悪い気はしない。
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