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人っ子一人見当たらぬ道路には、数機のドローン。対外商業用(TYPE-purple)。遠隔操作される端末、意識(var=[will])の海を漂う僕たちわたしたちの、現実世界での手足。
対外工業用(TYPE-blue)、対外衛生用(TYPE-yellow)、対外警備用(TYPE-red)などなど、僕らはクラーケンよろしく肥大した手足を増やし続けている。言葉(ワード)すら必要とせず忠実に作動する端末に、社会は大いに満足している。
醒めきった孤独とともに空を見上げれば、飛行ドローン型の対外運送用(TYPE-green)が小鳥の群れのように空を覆っていた。憎らしい羽音が耳に障って、僕は傍らを通過した対外商業用(TYPE-purple)のボディを蹴っ飛ばした。表面に張り巡らされた衝撃吸収材に虚しくつま先が吸い込まれ、押し戻されて僕は転覆する。
ただいま二十六、七世紀、人類はすっかり社会の基盤を現実から虚構の、電子信号とシグナルの飛び交う空間に移している。産まれ落ちればすぐさま口座(account)が作られ、共同体(:com-un!ty)への釈明(account)を経て、はじめて個人(account)を名乗る資格(account)を得る。そうなればよほどのことがない限り、現実世界で目を覚ますことはない。なにかと面倒の多い肉体は、透明な卵殻の中で羊水の中を漂い、成長に必要な必要な栄養・電気刺激は共同体(:com-un!ty)の監修の下に逐次施される。そして羊水に浮かぶ脳の中の意識(var=[will])はめでたく共同体(:com-un!ty)の一員となるのだ。
寝転がったまま再び空を見ながら、僕は指先に携帯型意識翻訳器(P.C.T.)の輪郭を探す。何度も探針(プローフ)を突き刺し、神経組織をえぐってきた僕の左腕は、肘から先の感覚がちっともない。それもそのはず、そもそもが言葉(ワード)を必要としない端末どうしの交信のために製造された、対全端末専用共有領域(All Terminal Interface)だ。欠陥だらけの虚弱な人体のために作られたモノじゃない。
やり場のない空虚な感情に支配された僕の意識(var=[will])は、気づけば指で摘んだ探針(プローフ)を左腕の付け根へ深く差し込んでいた。
浮遊感。トリップ。意識(var=[will])の置換。
言葉(ワード)が消えて共同体(:com-un!ty)の輪郭が現れる。このセカイのホントの姿。あらゆる意識(var=[will])だけが漂う混沌と秩序の坩堝。
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