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「あの、ハルさんは、何か言ってましたか」
連絡を受けてから、一週間後の土曜日。ムラサキは美咲と会っていた。
「ひどい罵りようでした。腹の中の子を始末しとけと言われて、なだめるのが大変でした」
腹を摩る美咲の姿に吐き気がして、気付かれないようムラサキは眉間にシワを寄せていた。
「春樹が医者も予約してあります。美咲さんは未成年で保護者が必要なので、私がついていくよう言われております」
「ハルキ……」
「おや、名前もご存知ありませんでしたか」
体調がすぐれない美咲を、物腰柔らかにムラサキは追い詰めていく。
「ひどい男です、春樹は。ご存知ですか、春樹も私もヤクザなんですよ。生天目 美咲さん」
ソーサーを手に脚を組んでコーヒーを飲んだムラサキは、微笑んだ。
「生天目会長夫妻にはばれずに中絶手術ができますよ、ご安心ください」
つわりがひどく、やっとここまで出てきた美咲には酷い仕打ちだった。
「……グッ」
口を押さえ、席を立つ。トイレの個室で吐いたところまでは覚えていたがそれ以降の記憶がなく、目を覚ました美咲の目には薄汚い天井が見えた。
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