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今から二十年前。
厚底ブーツが流行り、携帯電話もあまり普及していなかった時代ーー。
「今日、ちょっと遊んで行こうかな。一つ空いてるし」
「ハル、お金を払わないで遊ぶのはやめてください。上がりが悪くなります」
「お前はさ、いつまでその敬語なわけ?」
工業高校を中退したハルを追うようにしてムラサキは道を外れた。ハルはやんちゃで散々、悪を尽くして極道に入ったが、その世界ではまだ駆け出しのチンピラ。スカジャンをはおり、組の運営するテレクラの店番をする事もあった。
ムラサキもハルの口利きで、同じ道に入ったものの工業高校では、成績優秀。頭のキレと物腰の柔らかさが組の頭に気に入られ、運転手を務めていた。
「俺、やっぱり遊んでこっと」
「ミイラ取りがミイラになりますよ」
真逆の二人が無二の親友だとは信じがたいが、事実だった。同じ部屋で暮らすのも苦ではない。
ここのテレクラは男が狭く区切られた一室で、女からかかってきた電話に出る。その場でテレフォンセックスをしたり、あわよくば会う約束もできる。法的規制がかかる前で、売春の温床とも言われていた。
ハルは、空いていた部屋へ入った。もちろん、金は払っていない。中は、味気ないスチール机の上にビデオデッキ付きのテレビと電話機。その横には、ティッシュと灰皿が置かれている。芳香剤もあるが、どこかイカ臭い匂いが漂っていた。
「さてと……」
電話は既に鳴っている。それには出ず、ハルは煙草に火を付けた。円目的は、うんざりだった。兄貴達の金でいいものを食わせてらうが、預金はしていない。金がなくなったらムラサキから借りてパチンコに行き、さながらハルはムラサキの紐状態だった。
煙草を吸いながら、二回目にかかってきた電話に出るとあまり好みではなかった。想像するに股の緩いガングロギャル。円には乗らないと言うと、あっさりと切られた。立て続けに、また電話が鳴る。できれば、女子高生よりも人妻の方がハルの好みだった。
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