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『もしもし……』
か細い声に、口をへの字にしたハルは何も答えずに切ろうとした。根暗は一番嫌だ。
『もしもし』
今度ははっきりと聞こえた。
『初めてなんです』
「テレクラが初めて?そんなのたくさんいるよ」
『セックスが初めてなんです。男の人とできるところって聞いたんですが……』
ハルは黙り込んだ。声からして、また高校生だろう。慣れていないなら、金は踏み倒してタダノリしやすい。熟れた人妻とまっさらな処女。普通だったら、処女に飛びつくだろうが、ハルは迷った。
「いくら?」
『お任せします』
「は?」
この金に執着がない感じ。普通だったら厚かましく、金額提示をしてくるものだった。
『育ててくれている祖父母に、ずっと幼稚園の先生になることを反対されていて、普通に女子大に行って結婚しろって。古くさい話ですよね。私の知らない婚約者までいて、信じられない。私は仕事の道具じゃないと教えてあげたい』
「親は?」
『いないです』
この出会いを諦めたのか、電話越しに自分の身の上を話し笑っている。この子はお嬢様だろう。今時、高校生で婚約者など、ハルは聞いたことがない。
「……なんか、美味いもんでも食いに行く?」
『セックスしてもらえますか』
「したいの?」
『鼻を明かしてやりたいの』
面白そうだった。あわよくば、セックスもできる。ムラサキのケツを借りるよりはマシという低次元な選択をして、ハルは待ち合わせの場所へ向かった。
空は曇り空。夕暮れも近付いている。少し湿った暖かな風に混じった桜の匂い。そう言えば、もうそんな季節だ。公園でも歩きながら少女の話を聞こう。荒くれていた高校時代にはなかった甘酸っぱい経験をするのも悪くない、そう思った。
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