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「……面倒くせぇ」
ボソッとハルの口からもれた言葉に、嗚咽を我慢し面を上げた美咲は、いじらしくて本当に可愛いらしく、ハルを買ってまで、処女を喪失しようとしている事が理解できなかった。
「五万円じゃ、足りないですか」
「そう言う問題じゃない」
いつもおちゃらけているハルが、珍しく声を荒げた。
「もっと大事にしないとダメだ」
「大事にしてます。してるから、望む人とセックスしたいんです」
美咲の声が大きい。ハルは我慢の限界が来て、もう一度、美咲の手を握った。望むと言ってもテレクラで出会っただけで、さっき見た成瀬と言う男の方が到底、自分より立派にみえる。
「後で後悔するのはそっちだからな!」
珍しく湧いた親切心をないがしろにされ、どうせならとことん下衆なラブホテルでめちゃくちゃにしてやろうと思った。
「成瀬さんに触られるのは気持ち悪のに、ハルさんは嫌じゃないから、平気」
「お前、あの男に触られたの?」
「昨日、家まで送ってれた車の中で足、触られてスカートの中に手を入れてきて……嫌だった。初めては、好きな人がいいって思った」
「好きな人って……」
「ハルさんのこと、好きになります。だから、お願い」
手を握り返され、好きになりますと言われたところで住む世界が違い過ぎて、ハルの常識は全く通用しなかった。
「お願いって言われてもさ……」
ハルは、自分が極道の端くれである事を言えなかった。どこかで、こんな子が彼女だったらと夢見たのかもしれない。
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