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「ハル……最近、どうしたんですか?」
「何が?」
ハルはスーツを着るようになった。いつも面倒がっていた借金の取り立ても積極的に向かうようになり、事務所の上納金は目に見えて増えて行った。たった、数ヶ月だ。たった数ヶ月で箸にも棒にもかからないチンピラだったハルの事を頭がムラサキに良く聞いてくるようになっていた。
最近、手に入れた携帯電話を自身の万年床で寝転がりながらハルはいじっている。メモリーには、決してかける事のない美咲の自宅の電話番号が登録されていた。
「寒……ムラサキ、電気ストーブ付けて」
1LDKの狭い部屋も、ハルの今の頑張りであればもう少し広いところで一人暮らしができるだろう。ただ、美咲の家の近くとなると話は別だった。
「ムラサキ。ストー……んだよ!」
突然、首筋を噛まれたハルは驚いて携帯を投げ、ムラサキを突き飛ばした。
美咲に出会ってから、ハルはムラサキを抱かなくなった。夜中だろうが出掛ける前だろうが、他の組員のいる事務所だろうが、それこそ便所のように気の向くままムラサキを抱いていたハルが、今年の春先から指一本触れてこない。最初は気に留めていなかったが、ケツの快楽を覚えてしまったムラサキは最近、躰の疼きが止められず、自らオモチャをケツ穴に突っ込んで、寝入るハルにわざと聞こえるように、激しく喘ぐ夜もあった。が、その全てを無視された。
「触んなよ」
「ハル」
「ちょっと、外でて来るわ」
一人になった部屋で、ハルの携帯から昨夜メモした電話番号を見てムラサキは小さく笑った。
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