苦いけど、甘いモノ

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これでよし、っと… 額に伝わる汗を手で拭ったら、ふぁあと私の口から欠伸(あくび)が漏れる。こんなに朝早く起きて何かをする、っていうのは初めてだったかもしれない。 でも、その苦労に見合うだけのモノはできた、と自分では思っている。試しに味見をしてみる…うん、これなら彼も喜んでくれそう(^^) あらあら…随分と気合いの篭(こも)ったのができたわね、と母親から声をかけられる。家族の朝ご飯やお弁当を拵(こしら)えるその傍らで作ってたから、そう言われるのはある意味当然かもね。 そんな母親に笑顔を返してから、私はでき上がったモノを丁寧にラッピングしていく。包む紙の色は赤、紅髪の男子ほどじゃないけど、彼の髪も赤みを帯びていたから私はそれにした。 ラッピングペーパーで包み、黄色のリボンで軽く飾り立てて完成。赤に黄色、目立つような彩りだけど、あまり気には留めなかった。 同じようなモノをいくつか作り、手提げの紙袋に入れていく。外観は似ているけど、彼にあげるモノだけリボンの結び方を変えていたから、渡す時に間違えることは無い…と思う。 準備はできた。 私はいつものように朝ご飯を済ませ、仕度を整えて家を出る。ううっ、寒いわね…まだマフラーが手放せないかな…? 待ち合わせの場所で女友達と合流して、通学路を足早に歩く。他愛もない話を延々と、止めることなく続けながら、私達は学校へ向かう。 おしゃべりしながらだと時間が経つのは早いらしく、私達は学校に着いた。クラスは違ったから昇降口で別れ、私は一人で教室へと足を向ける。 その途中、女子が男子に何かを渡すのを何度か見かけた。時に親しみやすく、時に恥ずかしながら女子が渡すそれは、私が彼に渡そうとしているのと同じようなモノだった。 今日は、2月14日。 彼と出会ってから四度目のバレンタインデー…その当日の朝から見られるモノとしてはごく当たり前の光景を、私は流し見していた。
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