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…うわ、何コレ凄い……
教室に入った私の目に飛び込んできたのは、机の上に積まれたチョコレートの山だった。ラッピングの紙は色様々、それらがバランス良く積まれていたの。
その席に座るのは紅髪の男子…去年の暮れに知り合った、同世代で抜きん出ている強さを持つ朱兎だった。この分だと下駄箱も凄いことになっていそう…見なくても簡単に想像できるわ。
私が聞く彼の話だと、バレンタインに送られるチョコは一つ残らず彼の胃袋へと入っていくらしい。しかも、それを授業が始まる前にきっちり完食するって言うから驚きよね。
でも、今年はどうなのかしら…?
私は少しだけ感傷的になる。
これまではともかく、今年迎えるバレンタイン…その意味合いは、彼にとって全く違うモノになっているはずなの。私だったら耐えられない…多分、きっと。
っと、いけないいけない…
私は軽く首を振ってその想いを振り払い、ゆっくりと足を進める。
…いた。
嫌いなチョコが机に置かれる日だって分かっているはずなのに、彼はいつも通り自分の席に座っていた。この辺りはブレないわね、彼。
そんなことを思いながら、
「おはよっ」
軽く挨拶をかける。
「おう、来たなミヤ…ん、どうしたんだよ、その紙袋」
彼から返事が返ってきたのを聞いた私は、そのまま自分の席に鞄を置き、
「決まってるじゃない、チョコよ、チョコ。バレンタインにあげるチョコ」
そう返すと、彼はほんの少し『ウゲッ』とした表情を浮かべ、
「んだよ、ミヤまで気分は恋する乙女ってヤツなのか」
冗談キツいぜ、と言いながら机の中をゴソゴソと漁り、そこからいくつかの包みを取り出す。
それは彼宛てに送られたバレンタインチョコだった。彩り鮮やかなそれらは彼が教室に入った時にはすでにあった、と言う。
チッ、先を越されたわね…
私以外にも彼にチョコをあげる娘がいるなんて思わなかったから、ちょっと悔しいと考えちゃったのは否定できないわ。
でも残念。普通のチョコなら彼はいい気分にならない。何せ、彼はチョコ嫌いだからね。
そんな彼だけど、今年はチョコだからと簡単に捨てたりはしなかったみたい。私の言葉を覚えていてくれた、って考えると少し嬉しくなった。
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