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「それも考えたんだがな、どうにも気乗りしねぇんだよ。何で好き好んで自分の嫌いなモンを喧伝しなきゃいけねぇんだ…って考えると、なぁ……」
後頭部をポリポリと掻きながら彼が言葉を返してくる。その様子、口にする言葉からは『面倒臭い』って言いたいのがよく分かった。
チョコが嫌い→面倒臭いから言わない→バレンタインにチョコを渡される→嫌いなモノを見る羽目になる→チョコを捨てる→女の子が泣く→でも面倒臭いから言わない
これが毎年繰り返されていたことになる。まぁ、去年の年末で『チョコを捨てる』、『女の子が泣く』ことは無くなるけど、それでもこのループは続いていく。
こんな調子だと、事態が好転する訳がない。彼が『面倒臭い』と思わなくならない限り、延々と繰り返されることになる。
嫌だな、と私は思った。
好きな人にはバレンタインを良いモノだと思って欲しいし、笑顔で、とまではいかないけど、嫌な想いでチョコを受け取って欲しくない。
……
私は考えた。
どうすれば、彼にバレンタインを好きになってもらえるか…どうすれば、チョコを気持ち良く受け取ってもらえるか…?
その方法を考えている私の耳に、
ガタンッ
何かを乱暴に置いたような…そんな音が届いた。
私が音のした方を見ると、そこには山のように積まれたバレンタインチョコが崩れた光景と、それを見て物凄く嫌そうな表情を浮かべた朱兎の姿があったの。
あぁ、やっぱりこうなっちゃうのね…
私は朱兎に同情の意を感じ得ずにはいられなかった。仮に私が男で、彼と同じ状況にいたら、間違いなく同じ行動を取るわ。
たくさん贈られたバレンタインチョコ。
でも、本当に欲しかったモノはそこには無い…
虚しくて、切なくて、悲しくて…でも、どうすることもできなくて……
やり場の無い想いは怒りになり、憤りを覚えさせ…その結果として、彼はこうするしかなかった。私には、それがよく理解できた。
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