苦いけど、甘いモノ

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そんな朱兎でも、バレンタインチョコの意味は覚えていたらしく、崩れ落ちたチョコを一つ一つ拾い上げ、机の上に積み上げていく。 そして、無造作に一つのチョコの包みを解き、それを徐(おもむろ)に口へと運び、噛み砕き、飲み込む。 「…い」 不意に、チョコを食べた朱兎がこんなことを口にしたのを、私の耳は捉えていた。チョコを一つ、また一つと食べる度に、同じ言葉を繰り返している。 その声は小さく、あまりよく聞こえなかったけど、同じことを言っていることだけは理解できた。彼、一体何を言っているんだろう…? それにしても、朱兎の食べるスピードは信じられない程に早く、積まれていたチョコが見る見るうちに無くなっていく。よくもまぁ、あんな早さで食べられるものね…と驚きつつ、呆れつつ、私は彼がチョコを食べていく様を見ていた。 すると、 「ったく、あんな甘ったるいモンをよくあんな早さで食えるよな。それだけでも信じられねぇってのに、不味いって分かってるモンを食い続けられるのが俺には理解できねぇよ」 私の傍にいた彼が不意にこんなことを言ってきた。 全くね…私はそう同意しかけたけど、後に続けた言葉が私の頭に引っかかりを覚えさせる。 ー不味いって分かってるモンを食い続けられるー 確かに彼はそう言った。 まぁ、チョコが嫌いな彼からしてみるとそう言うのは当然かもしれないけど、私が気に留めたのは『不味いって分かってる』っていうとこ。 チョコ=不味いモノ、という図式が頭の中にあっても、食べてもいないものをそう判断するのは難しいと言わざるを得ない。 にも関わらず、彼はそう断言してみせた。気に留まらない訳がない。 そう思った私は、 「不味いと分かってるモノ、ってどういう意味…?」 そっくりそのまま尋ねてみる。
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