5人が本棚に入れています
本棚に追加
「はい、お粗末様でした。気に入って貰えて何よりだわ。
バレンタインに貰うチョコ、普通のチョコが嫌いって言うより、ビターチョコならいくらでも、なら言いやすくないかしら…?」
嫌いなモノを喧伝するより、好きなモノを好きだと言う…その方が彼の性格に合っていると私は思ったのよ。
だからこそ、私は私が作ったビターチョコを彼に食べてもらい、それを指摘した。これから先のバレンタイン、彼が嫌がらずにチョコを受け取れるように。
あとは、それを彼に気付かせて『また来年も頼む』って言わせたら、私は彼との距離をまた一歩近付けることができる…
はずだったんだけど、
「ん…あぁ、確かにそうだな。好きなモノを…って、ちょっと待てよ…」
別の何かに気付いた…そんな感じに取れるような言葉を、彼は口にした。
「ん、どうしたの?」
私が聞いてみると、
「バレンタインに贈るチョコって、『貴方のことが好きです』って意味を込めて贈るんだよな…?」
問いに問いを重ねてくる彼。その言葉のほとんどは去年の暮れに私が彼に向かって言ったモノだった。
何を今更ながら…
それを聞いてからほんの一瞬、私は呆れかけたんだけど、
って、ちょっと待って…いや、まさかねぇ……
彼が何を言おうとしているのかに大体の検討がついた…けど、恋愛感情には疎い彼のことだから、百歩譲ってもそれはない…と思い直す。
でも、決めつけるのはダメだと考えながら、
「ええ、そうよ。それがどうかしたの?」
平静さを装いつつも再び尋ねる。
「ミヤはこうして俺にチョコを贈ったよな…? 俺が初めて美味い、って思ったビターチョコを…」
私の作ったビターチョコを包んでいた紙をチラッと見ながら、彼はほんの少しだけ戸惑いの色を含んだ口調で言葉を続けてくる。
あぁ、ここでこう来ちゃったかな…? 相変わらずなのは良いけど、何でこのタイミングで発揮しちゃうのよ……
私は困ってしまった。
私がチョコを贈った意味を、彼は理解しかけている。
恋愛感情にかなり疎くても、順番に言葉を並べてみて、思考を重ねて答えを出すくらいのことが簡単にできちゃうのが彼という人間。
それが彼の良いところなんだけど、今はその思考力を働かせて欲しくなかったなぁ…
でも、大丈夫…多分何とかできる。
誤魔化せる自信が、私にはあった。
最初のコメントを投稿しよう!