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「何でバレンタインのチョコを食べないの…?」
言葉も、内容も、かなり簡単なものでしかないこの質問を、私はずっと聞けずにいた。
彼のことを見ていたのに、傍にいれるようになったのに、どうしてもこの一言が口から出せない。
何でなの…?
私は、私自身に何度もそう尋ねた。
他の女子より一歩先に行っている余裕があるから…?
違う。
一度リードしたからって、そのままの状態が続く訳じゃない。後ろにいる娘に追い抜かれるかもしれないし、ポッと出の知らない女子に彼を取られることだってあるかもしれない。だから、これは違うと、私は否定した。
じゃあ、タイミングが合わなかったから…?
少し考えたけど、これも違うわね。
確かに、聞こうとした時にタイミングが外れたことはあったわ。着信が入ったり、彼の友達がひょっこり顔を見せたりして、その都度私は言いよどんで無かったことにしてた。
でも、私は彼の近くで過ごす時間が多かった。その気になればいつでも聞けたのに、私は聞かなかったの。違う、って思ったのはその辺りが理由になるわね。
…怖かった、から…?
……多分、ううん…きっと、そう。
もし、タイミングが合って尋ねることができたと仮定しても、彼の答えを聞きたくない…
「俺、好きな娘のチョコしか受け取らないようにしてるんだ」
そんな、最悪の答え【飛躍し過ぎ、なのは否定できないけど】が、返ってきそうな気がしてたから…
一年が暮れては明け、暮れては明けを繰り返すように、私は彼に聞けずにいる日々をずっと、ずっと…繰り返していた。
…そう、『あの日』が訪れるまでは。
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