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その人がこの場に現れた時、彼はそっちを見たまま固まっていた。燃えるような紅い髪に、それに似た紅い瞳を持った男子がここに来た…正直、私は驚いていたわ。
それもそのはず、ケンカで負け知らずだった彼に初めて土の味を舌で感じさせ、同年代だと右に並ぶ者はいないっていう強さを持っている人だったからね。
私は、偶然その場に居合わせていた。
腕っ節には自信があり、挑んだ彼が、たった一発の拳も、蹴りも入れられないまま、一方的に攻め立てられていくのを、私はただ見ているしかなかったの。
悔しかった…
いくら一対一(サシ)でのケンカを彼が望んだとはいえ、何もできずにいた私の非力さを呪いもしたわ。
「ハハッ、あの『朱兎(しゅと)』にタイマンを挑むなんて、ソイツも無茶をしたなぁ…
アレは小坊レベルじゃ到底敵わない強さを持っている。今の時点で敵う同世代のヤツは、おそらく『栗色の妖精』くらいだろうよ」
私のケンカの師匠であるイトコはそう言って笑っていた。一回りくらい歳の離れたイトコは、Soma's CrowやSOLAR'sのヘッドでさえも頭を下げて敬意を払う実力の持ち主…そんなイトコが言うんだから、まず間違いはないと私は思ったわ。
小学校を卒業して、同じ中学になったけど、朱兎とはそれっきり接点がなかった。彼にはいつかリベンジをするつもりがあったかもしれないけど、今はまだ…って思っていたからかもね。
できれば、そんな日は二度と来て欲しくない…私はそう思っていた。
朱兎に完膚なきまでに敗れ、地面を這う彼の姿を二度も見たくない…女の子なら、好きな男子のそんな姿は見たくないわよね?
でも…朱兎は四人の仲間と共に、Soma's Crowのメンバーになった私と彼の前に現れ、
ーSoma's Crowを、潰すー
そんな意味に取れるような言葉さえ言ってきた。
物事は人の思うようにはいかないモノとは言うけど、いくらなんでも私達の目の前で起こること無いじゃない。この時ばかりは、私は神様を呪ったわよ。えぇ、呪ってやったわね。
やっぱり、彼をどうにかして説得し、SOLAR'sに入った方が良かったかもしれない。私は、ただ彼の傍にいたいと思ったことを激しく後悔した。
それが結果論に過ぎないんだ、ってことは分かっていたけど、私はそう思わずにはいられなかった。
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