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私の名前は広田 小雪という。
特にこれといった取り柄のない二十歳の大学生である。
大学を他府県にして地元から離れて一人暮らし。
最初は不安もあったけど、自分のいってみたかった大学と都会の生活にも慣れてきて、それなりの一人暮らし。
問題は彼氏がいないことくらいかもしれない。
なんて思っていたら、いつも遊んでくれる男友達から、いきなり言われた。
「ヒロ、俺とつきあおっか?」
なんて、とても軽く。
二十歳になったから、居酒屋でお酒を飲みながら。
いつもはみんなとわいわいしているのに、今日は珍しく二人きりというものだった。
私はお箸に唐揚げを摘まんで、一口かじった状態のまま、目を丸くして目の前の席に座る男友達、久井 勝を見る。
何を言われたのかはわかっているけど、それを本気にしていいのかわからなかった。
お酒で酔ってるだけなのかもと思った。
無言で勝くんこと、サルくんを見てると、サルくんはその頬を膨らませる。
「俺じゃ不満?」
なんて聞いてくれて、私は遅れてドキドキしてくる。
サルくんにそんなこと言われるとは思ってなかったのが正直なところ。
サルくんはムードメーカーみたいな人で、盛り上げ役といった人で。
一人ぼっちだった私に声を最初にかけてくれてくれたのもサルくんだった。
みんなにサルサル言われて、それってイジメ?と思うようなことも笑いにかえちゃう、明るくて楽しくておもしろい人。
私もサルって呼んでいいって言ってくれて、サルくんとあだ名のように呼ばせてもらってる。
「よ、酔ってるよね?」
私はドキドキしながら、そういうことにしてみる。
どこか緊張。
だって、つきあってなんて今まで誰にも言われたこともない。
いいなと思う人ができても言えなかった。
「酔ってるけど本気。ヒロ、つきあお?」
もう一回言われて、私は更にドキドキ。
頬が赤くなっているのはお酒のせいじゃない。
「俺、ヒロとなら世界一の漫才夫婦になれると思うんだ」
「漫才かよっ」
私はすぐにツッコミのような言葉を入れて、サルくんは声をたてて笑う。
「私のドキドキ、返せっ」
「返さない。…ヒロも帰さない。朝まで一緒にいよっか?」
「色気あるような言い方しないっ」
手をのばして、ぴしっとサルくんを手の甲で叩く。
今でもじゅうぶん漫才夫婦かもしれない。
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