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サルくんは笑って、その手も受け止めて。
私も笑って。
お手洗いに少し席を離れた。
手を洗いながら、鏡の中の自分を何気なく見てみる。
たいして美人とかかわいいでもない。
それでも今日の私はすごく楽しそうないい顔をしていると自分でも思う。
手を洗って拭いて、鏡に向かって、 変顔をつくってみる。
耳を引っ張って、頬を膨らませて、鼻の下にも空気入れたら…サル顔。
そんな自分の顔に笑って、サルくんとの席に戻る。
つきあっての言葉は流れたようなものになったのだけど。
お店を出たあともちょっと意識したまま。
サルくんもどこか意識していて、いつもはそんなことしないのに、手を差し出してきたりして。
私はその手に手を重ねる。
きゅっと私の手を包むように握るその手は、思っていたより男だった。
大きい手。
初めてこんなふうに手を繋いで男と歩いている。
「小雪…って呼んじゃおうかな」
どこか恥ずかしそうに、誤魔化すように名前を呼ばれて、またドキドキしてしまう。
「さるさるさるさる、まーさる」
私もちょっと誤魔化して、その名前を呼んでみる。
サルくんは笑う。
その恥ずかしそうな笑顔の横顔に、私も恥ずかしくなりながらもうれしくて。
「また二人でどっかいこっか?映画いく?今話題のやつ」
デートみたいだ。
デートなんだと思う。
「いく。遊園地もいきたいな」
「いこ。絶叫系得意?俺、悲鳴あげるかも。笑ってね」
サルくんの言葉に私は笑いながら頷く。
おもしろくて優しい彼氏ができたと思う。
少し頼りないところもあるのだけど、優しいのがいい。
そんなにイケメンっていうほどでもないし、背も私とあまり変わらないくらいしかないのだけど、たまにかわいく見えたり、かっこよく見えたりもする。
私にとっては、私を楽しくさせてくれて、私をドキドキさせてくれる人。
きゅっと手を握り返す。
世界一の漫才夫婦、なってもいい。
サルくんの元気のよさをもらって、私も元気になれるから。
サルくんのようにまわりを笑わせられる人になりたいかもしれない。
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