月夜ニ歌ウ

5/10
前へ
/241ページ
次へ
私の家は少し繁華街から遠い。 学校の近くにはなるのだけど、田舎かもしれない。 サルくんは家まで私を送ってくれようとしたけど、遠いからと私が遠慮して。 「次、バイトいつ休み?」 「たぶん水曜日。シフト見てからまた連絡していい?」 「うん。来月からシフト合わせて休もうか?」 そんな話を手を離せないまま話す。 あとで携帯で話せばいいとも思うけど、離れられなくて。 ドキドキ、ずっとしてるのは、お酒のせいじゃない。 家にきてもらってもいいかな、なんて思ったりもした。 でもそれはさすがに早すぎる気がする。 よって、なんとか気持ちを振り切って、今日はここでばいばい。 明日にはまた学校で会える。 ドキドキは落ち着かないまま。 暗い夜道を家に向かってまっすぐ歩く。 車も人もあまり通らない大きな道。 それなのに街灯がしっかりしていて明るい道。 学生が駅から学校にいくときには通学路になるからかもしれない。 まわりは公共施設も多い。 昼間には渋滞することもある道だからかもしれない。 今のこの遅い時間では静か。 浮かれた気持ちで、サルくんがカラオケで歌っていて覚えた歌を鼻唄で歌いながら、歩道をまっすぐに歩いていた。 車のヘッドライトの明かりが見える。 速度オーバーで飛ばしているのか、その明かりはすぐに近くなって。 え? と思ったときには遅かった。 ブレーキの鋭い音。 私に向けられているヘッドライトの明かり。 走って逃げるとか、そんなこと考える余裕はどこにもなかった。 体にめり込む車のフロント。 弾き飛ばされて宙を舞った私の体。 どさりと道路の離れたところに落ちて転がった。 意識はあった。 なにが起こったのか、わからなかった。 端から見れば私は、まるで軽いマネキン人形のような動きで、何も抵抗できずに吹っ飛んだのだろう。 痛みがあるのかもわからない。 ただなにもわからなくて、体がアスファルトの地面に転がったまま起き上がれない。 全身が心臓になったかのように、ドクドクと大きな音をたてているような気がした。
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

151人が本棚に入れています
本棚に追加