おすそ分け

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 ある男が警察で尋問を受けていた。 「いったい何故殴ったんだ!」 「……」  男は答えなかった。 「被害者の女性は隣の部屋との事だが、よく知っていたのか?」 「……いえ、挨拶する程度で、会話をしたのは昨日が初めてでした」 「面識のない女性をいきなり殴ったのか!貴様!」 「……カレーを」 「何だと?」 「カレーを温めていたんです。一昨日の」  男は話し始めた。  温めたカレーの匂いが部屋の中に漂ってくる頃、ドアのチャイムがなった。  覗き穴を覗くと、若い女性が立っている。  隣の部屋に住んでいる女性だ。  たまに見かけるだけだが、とても魅力的な女性だと常々思っていた。  そのお隣さんが、いったい何の用だろう?  ドアを開けると、隣の女性は小さな鍋を両手に持って立っていた。 「突然すみません。実は肉じゃがを作り過ぎてしまって……あ、もう夕飯はお済みですか?」 「いえいえいえ、今食べようと温めてた所ですよ。いや嬉しいなあ」  カレーの匂いが充満する部屋を振り返りつつ答えながらニヤニヤが抑えられない。 「良かったあ、喜んで貰えて。実は、肉じゃがを作り過ぎてしまって」 「はいはい」 「一人ではとても食べられないと思ったんですけど、全部食べられたんです」 「……は?」 「そうしたら、一ヶ月以上止まっていたお通じがありまして」 「……はあ?」 「思ったより沢山出たんで、誰かに見て欲しかったんです」  女性は鍋の蓋に手をかけた。 「うあああぁぁあああぁああああ!!!!」  男は、その日の内に釈放された。
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