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『己を捨て献身するが吉』
度重なる不運に見舞われていた男が、何となしに引いたおみくじだった。
その帰り道、道のフェンスの傍で、用水路を眺めている女性を見付けた。
その横顔は物憂げで、とても美しかった。
「どうかしましたか?」勇気を出して問いかけてみると
「とても大切なおまもりを落としてしまったのです」
女性はそう答えてため息をついた。
おみくじもおまもりも神社。
困っている美しい女性。
『己を捨て献身するが吉』
男は靴を脱いでフェンスを乗り越え、用水路に飛び降りた。
「え!?ちょっと……」
「いえいえお気になさらずに、僕が好きでやっているだけですから」
驚く女性にそう答えたものの、下に降りて分かったが相当臭い。
泥が腐っているのだろう。吐き気を我慢しながら泥の中に手を入れる。
しかし、しばらく探してみるがそれらしき物は見付からない。
「どこら辺に落としたか分かりますか?」
気持ち悪さに耐えかねて、身体を起こして聞いてみる。
「あの、それが……」
「大体で良いんですよ。どの辺りかだけで」
「さっき公園を散歩していたのですが、そこで落としたと思うんです」
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