落とし物

2/2
前へ
/200ページ
次へ
『己を捨て献身するが吉』 度重なる不運に見舞われていた男が、何となしに引いたおみくじだった。 その帰り道、道のフェンスの傍で、用水路を眺めている女性を見付けた。 その横顔は物憂げで、とても美しかった。 「どうかしましたか?」勇気を出して問いかけてみると 「とても大切なおまもりを落としてしまったのです」 女性はそう答えてため息をついた。 おみくじもおまもりも神社。 困っている美しい女性。 『己を捨て献身するが吉』 男は靴を脱いでフェンスを乗り越え、用水路に飛び降りた。 「え!?ちょっと……」 「いえいえお気になさらずに、僕が好きでやっているだけですから」 驚く女性にそう答えたものの、下に降りて分かったが相当臭い。 泥が腐っているのだろう。吐き気を我慢しながら泥の中に手を入れる。 しかし、しばらく探してみるがそれらしき物は見付からない。 「どこら辺に落としたか分かりますか?」 気持ち悪さに耐えかねて、身体を起こして聞いてみる。 「あの、それが……」 「大体で良いんですよ。どの辺りかだけで」 「さっき公園を散歩していたのですが、そこで落としたと思うんです」
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加