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まだ6歳だった俺に両親は、女の子が我が家にやって来た理由を分かりやすく話してくれた。
今日から家族だと言われた日は戸惑いはあったが、日を追うにつれて芽生えていった“兄として一生をかけて守る”という想いは、いつしか人には言えないものへと変化していた。
愛おしい気持ちが溢れるたびに“家族なんだ”と打ち消して、想いを断つためだけに彼女を作り、自分の欲求の捌け口にしてきた。
真里にもいっちょまえに彼氏が出来て、そのことを知らされるたびに胸を締め付けられ、不安定な青春期を過ごしていたと思う。
俺が二十歳を迎えた年、父親はこう言った。
『真里が成人したら真実を伝えようと思っている。母さんも同じ意見だ。真実を知った時、真里がどういう感情を抱き、どういう行動に出るか計り知れないが、父さんも母さんも、真里の好きなようにすればいいと、そう思っている。貴文、お前はどうだ?』
『いいと思うよ。でもその前に真里が知りたいと言ってきたときにはきちんと話そうよ』
けれど、実際は真里が聞いてくることはなく、二人きりの二十歳のお祝いの時にも、俺は打ち明けることはしなかった。
俺はひたすら自分の感情に関わる言葉を避けて、事実だけを伝えた。
隠してきた“家族になった経緯”を聞き終えた真里は清々しい笑みを浮かべ、
「話してくれてありがと。引っかかることがあってさ…、でも、今全部繋がった」
そう言った。
繋がった…ということは、ひょっとして、随分前から気になることでもあったというのか?
それが、いつでどんな時のことかなんて聞けなくて、
「そっか」
情けない声しか出せなかった。
「他に隠してることあるなら今のうちだよ」
「ははっ」
伝えるべきことはこれで全てだ。
「もうないよ。これで全部」
俺がお前を好きだということは、
お前は知らなくていいんだ。
花見以降またすっぱりと連絡は途絶えた。
『次に連絡してくるのはオメデタの時じゃね?』
そうやってからかってくるサクの言葉が本当になりそうで、もしそうなったら俺は心から祝えるのだろうかと気を揉んでいた。
GWの渋滞のニュースも帰国ラッシュの画像も流れなくなり、その代わりに各地で梅雨入りしたという知らせが舞い込む頃、
運命の電話は鳴った。
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