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窓を小刻みに叩く音が聞こえてきた。
「雨か…」
独り言が漏れたその時、けたたましいチャイムの音が鳴ってソファーから体が浮いた。
「はい、はーい……っと」
新聞の勧誘かな。
適当にあしらうつもりで生返事しつつ玄関を解錠すると、
「雨っ!洗濯物っ!ベランダにダッシュ!!」
「お…っ?!」
「ほら急いでっ!」
「おう……」
「早くっ!」
「あっ…うん」
帰って来た。
『ちょっと出かけてくるね』と今朝家を出たかのような、そんなノリで、
真里が帰って来た。
犠牲になった洗濯物をしかめっ面で睨み、そのまま俺にキッと視線を向けた。
「午後から雨って予報だったでしょ!」
「そうだった…かな」
「あー、こんな適当な干し方!シワシワじゃない!」
「あー……うん…ごめん…」
「はぁ…もう一回洗濯し直さないと!やっぱり乾燥機買おうかなー。便利だったもんな…あ、お兄ちゃん?冷蔵庫って何が入ってる?」
「えっと…」
「ま、いっか。覚えちゃいないだろうし…ロクなもん入っちゃいないだろうし!」
「あー、うん…」
「はい、洗濯かご持って降りて!」
「う、うん…」
「私さーバタバタしててお昼食べ損ねちゃってお腹空いてるんだけど。お兄ちゃんは?何か食べた?」
「いや…」
「あ、洗面所に置いてきて?後でやるから!お兄ちゃんもまだなら何か軽く作るかー。でも、何もなくてもこの雨じゃ買い物行きたくないなー」
「置いてきた…」
「ありがと…って、……ひっどいね、冷蔵庫」
「えっ…あぁ」
「でもこれだけあったらオムライス作れるけど食べる?」
「食べる…」
「待って!ピーマンないや!ピーマンはマストでしょ!コンビニってピーマン売ってるっけ?」
「真里、いいよ…」
「よくないよ!でも…雨強くなってるね?諦めるかなー」
「真里っ!」
「何よ!」
「ホントもういいからっ!」
「っ……!」
「行かなくていいって。どこにも行かなくていい。どこにも行くな………行くなよ。俺から離れていくな。
そばにいろ………………な?」
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