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洗濯物が濡れたのをプリプリと怒って、冷蔵庫の中身にプリプリと怒って。
今までと全く変わらないそんな真里の腕を掴み、思い切り自分の方に引き寄せた。
はじめは短く息を吸った真里も、俺の胸の中に収まった途端にしゅんと大人しくなった。
俺も俺で、勢いにまかせて抱き寄せてしまったことに自分でも戸惑いながらも雨で濡れた髪が放つ香りのせいで痛いほど胸が苦しくて、次に言う言葉を見つけられないでいた。
いや。
こうやって抱き締めたこと、
抵抗もせず俺の背中にまわった真里の手、
ここに帰って来たそれこそが、
俺と真里の二人が出した答えなのかもしれない。
「真里?」
「………うん」
「大事な話……だ」
「何?」
「ピーマンはマストだ」
「うん」
「それと……」
背中を擦るように上下させた手のひらが一瞬だけ腰の下の方に降りてしまい、
おっと……と慌てた俺を真里が胸に顔を埋めてクスクスと笑った。
「本当はこのまま離れたくないが、お前のオムライスをさらに美味しく食うためだ、俺が買いに行ってやってもいい」
「なにそれ」
「ははっ……」
「お兄ちゃん…あのさ、」
「それとお兄ちゃんって…もう呼ぶな」
「えっ……」
「もうどこにも行くなよ?」
「うん……?」
「だったら…俺をお兄ちゃんって呼ぶな」
「急には無理だよ」
「ニノミヤのことは何て呼んでた?」
「友幸さん…って」
「じゃあ…俺も貴文さんって呼べ」
「でも…」
「呼んでくれたら…これからずっと風呂掃除は俺の担当で…」
「貴文くん!」
「ぶっ…早ぇなおい!てか“くん”なのかよ!」
「それがお似合いでしょ?得意料理はカップラーメンの人!」
「うるせ」
グイ…っと体を離し、クスクスとまだ笑う真里の頬を両手で包み込んで、俺はその笑いを止めてやった……
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