想い出の未来へ

4/19
94人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
笑顔で寄り添う両親のその写真は、俺の七五三の時のもの。 父親の友人がやっていた写真館で家族写真を撮り終えた後、その友人がツーショットをおまけで撮ってくれたものだ。 写真館は父親の地元、千葉にあって、両親の結婚写真も撮ってもらったそうだ。 仕事の関係で地元を離れ今の場所に一戸建てを構えたけど、5歳になった俺を見せにわざわざそこまで行ったんだ。 まだその頃は我が家には車が無く、電車を乗り継いで二時間以上かけて行き、とても疲れたのをぼんやりと覚えている。 そして、写真館で手伝いをしていた女の人のお腹がすごく大きくて、恐る恐るそのお腹を撫でさせてもらったのも覚えている。 母親は“この頃が一番痩せてた”と言っては写真を嬉しそうに眺め、 父親は“この頃が一番モテてた”と言っては母親を笑わせていた。 今でも天国で二人、この写真みたいに寄り添いながら笑っているんだろうか。 仏壇の前でチクチクと俺のダメなところを報告して、いくらかスッキリとしたらしく、 「お風呂…入っちゃってよ?」 俺に背を向けたままで発した声は落ち着いたトーンだった。 「あ、うん」 口喧嘩程度ならいつものことで、仏壇の前に真里が座り込むと長いのもいつものこと。 寂しそうな背中を見つめながら、俺はあんなに重かった腰を上げ風呂へ行った。 真冬とはいえ、やっぱり風呂上がりのビールは最高だ。 タオルでガシガシと頭を拭きながら冷蔵庫から冷えた缶を2つ取り出してリビングへ戻った。 「あー、さっぱりした!なぁ、お前もビール……って、まだそこにいたんだ」 「うん」 泣いていたんだろうか。 鼻にかかった声で返事をした真里に気づかないふりをするのも昔からで、 中学時代の部活で負けた時も、 高2の修学旅行に行けなくなった時も、 晴れ姿を見せたかった成人式でも、 俺はずっとずっと気づかないふりをしてきた。 それももうすぐで終わるのか。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!