桜色

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桜色

サークル部屋の扉を開けると、すでに先客がいた。 本棚に囲まれた奥へと細長い小さな部屋の窓際に座っているのは、シャープな顔を一層引き立てる銀縁細フレームのメガネをかけた黒髪の佐久勉(ツトム)君。 海苔のようにのっぺりとした、ツヤなどといったものはすべて無視した黒々とした髪の毛。 脱色した髪を無理やり黒染めした結果の不自然さの残る黒髪がやけに目立つ。 「佐久君早いね、どーもです」 「大堀さん……こんにちは」 私の声に手元の本から顔をあげた佐久君は、表情を変えることなく首だけで小さくお辞儀をした。 さらりと落ちてきた前髪が邪魔だったのか、佐久君は耳に髪の毛をかけて、そのまま本の世界に戻っていった。 今年度の首席代表はちょっとヤバイという噂があった……らしい。 というのも、新入生である私は、本来ならその首席を見ているはずだった。 私はインフルエンザシーズン終わりのはぐれ菌につかまってしまい、入学式に出られなかったのだ。 もちろん、受験期を逃れただけで十分に幸せなのはわかっている。 それでも入学式から最初の1週間を丸々無駄にしてしまったのはつらかった。     
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