ひそひそ声

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

ひそひそ声

 珍しく雪が積もった朝、バス停で来る気配のないバスを待っていたら、どこからともなくひそひそとした声が聞こえてきた。 「もうじきお別れだね」 「やだよ。そんなこと言わないで」 「でも、ボクはもう溶けちゃうから」  内容が気になって周囲を見回すと、誰が作ったのか、小さな雪だるまが二つ並んでいた。  でも日差しの影響で、一つは日陰、もう一つは日なたに存在している。そのせいか、日なたの雪だるまは随分と隣より小さくなっていた。  そこいらに溶け残っている雪を掻き集め、俺は日なたのダルマにその雪を足した。そいつを、日差しがどう向いても絶対日陰になる位置に移動させ、もう一体もその隣に移す。  その作業が終わったところでバスが来たので、俺はさっさとバスに乗った。  そして仕事からの帰宅時。  日陰に置いたとはいえ、もう小さな雪だるま達はどこにもなかった。けれど雪だるまを移動させた跡地には、何故かいまだに溶け残っている雪があった。  ありがとう。  雪で書かれた感謝の文字が俺の視界から溶けてなくなる。  だるま達はどうやら一緒に溶けて消えることができたらしい。…よかったな。 ひそひそ声…完
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!