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ひそひそ声
珍しく雪が積もった朝、バス停で来る気配のないバスを待っていたら、どこからともなくひそひそとした声が聞こえてきた。
「もうじきお別れだね」
「やだよ。そんなこと言わないで」
「でも、ボクはもう溶けちゃうから」
内容が気になって周囲を見回すと、誰が作ったのか、小さな雪だるまが二つ並んでいた。
でも日差しの影響で、一つは日陰、もう一つは日なたに存在している。そのせいか、日なたの雪だるまは随分と隣より小さくなっていた。
そこいらに溶け残っている雪を掻き集め、俺は日なたのダルマにその雪を足した。そいつを、日差しがどう向いても絶対日陰になる位置に移動させ、もう一体もその隣に移す。
その作業が終わったところでバスが来たので、俺はさっさとバスに乗った。
そして仕事からの帰宅時。
日陰に置いたとはいえ、もう小さな雪だるま達はどこにもなかった。けれど雪だるまを移動させた跡地には、何故かいまだに溶け残っている雪があった。
ありがとう。
雪で書かれた感謝の文字が俺の視界から溶けてなくなる。
だるま達はどうやら一緒に溶けて消えることができたらしい。…よかったな。
ひそひそ声…完
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