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 あの日も、やはり雨だった。  厭な仕事をした。長期にわたって監禁され、食事もろくに与えられず、複数人に暴力を振るわれ、輪姦され、嬲られ、殺され──切り刻まれて、下水に流された少女。  もはや、自分の健やかだった頃の姿さえ、忘れてしまったのか。頭髪は引き毟られ、疎らになっている。鼻と頬骨が折れ、鬱血した顔は酷く腫れて、人相も定かではない。薄く開いた口の端は切れ、そこから覗く歯も、折られたのか疎らだ。  首には絞められた痕があり、痩せ細った腕と脚は、本来曲がるはずのない方向に捻じ曲がっている。体中が痣だらけで、切り傷や、煙草の火を押し付けられた火傷の痕もある。  下半身は、特に執拗に嬲られたらしい。  閉じ切れない股の間から零れ落ちるのは、血か、精液か──多分、両方だろう。  下腹部と肉のない太腿辺りに、釘で引っ掻いたような傷がある。その一部が、バカ、公衆便所、ユルマンコ、と読めた。  少女の生前の写真を、桔平はニュースで見ていた。  特別に美人だとか、成熟した肉体の持ち主だとかではない。ごく普通の、これと言って特徴のない少女。おそらく平凡な毎日を、平凡に過ごしていたに違いないのに。それが何故、ここまでの奇禍に遭わなければならなかったのか。  ──痛い、痛い……ごめんなさい……私は、醜い豚です……苦しい、もう、許してください……パパ、ママ……痛いよぅ……  痛みを感じる肉体を、既に失っていることに、彼女は気づいているのだろうか。腫れた瞼が垂れ下がり、開いているかどうかさえ定かでない目から、血の涙を流し続ける。  深く傷ついた魂が、行きどころ無く、ただ蠢いている。  ──痛い、苦しい……何で、こんな目に……どうして、私が何で、どうして──  彼女に、桔平が告げられる言葉など、あるはずもない。  憎悪、憤怒、悲哀、寂寥、躊躇、屈辱、羨望、諦念、後悔、焦燥──目まぐるしい感情の渦。飲み込まれ、振り回されて、溺れまいと足掻いたところで、何の役にも立たない。  だから──人間は、嫌いだ。  無性に、山が恋しかった。
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