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 胸が苦しい。  公園の四阿にあるベンチに座り込み、桔平は大きく息を吐き出した。締め付けられるような、むかむかするような胸の不快感が、走って来たせいでないことは、解っている。  健太郎の優しさは、桔平だけに向けられたものではなかった。氷上にも、同じことをしているのだろう。  暖簾を下ろした店に招き入れ、穏やかに微笑んで迎える。  低く柔らかい声で名前を呼び、何もないぞと言いながら、複数の皿を用意するのだ。  見つめ合い、笑い合う二人の世界で──桔平は、異物だった。  氷上に呼ばれれば、健太郎は、桔平の存在など忘れたかのように、そちらへ行ってしまう。  胸元のシャツを握りしめ、きつく目を閉じる。  動悸が激しい。複雑に入り混じった感情が胸裏に渦巻き、抑え切れない。こんなことは、初めてだ。だが、この感情には、覚えがある──桔平の見る死者たちが、苦しげに抱えているもの。  自分の持たないものを持つ生者に対して湧き上がる、やるせないほどに激しい負の感情。  これは──嫉妬、だ。  まさか、体感することになるとは、思わなかった。  自分の身の内に、これほどの激情が潜んでいようとは──知りたくもなかった。  冷たい雨は、降り続いている。
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