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プロローグ
━━高校、それは彼女にとって、かけがえのないものだった━━
卒業式当日。神凪心結(かんなぎ みゆう)は、いつもより早く身支度をしていた。最後の日くらい、早く行き、最後まで居たかったから。
彼女は難病を抱え、高校生活三年間の内、半年ほどしか登校出来なかった。ギリギリ成績で卒業資格を得ていた。だからこそ、最後の日くらい頑張りたかったのだ。大好きな友達と一緒に卒業したい。ただ、それだけのために。
そんな彼女に残酷な現実が突き付けられる。
学校までは徒歩で十分ほど。一時間前になり、いそいそと靴を履いた瞬間だった。
『ピンポーン』
玄関のチャイムがなる。
「ん?」
母の声が開いたリビングから漏れ聞こえた。
「はい、心結。教頭先生よ。出てちょうだい」
いつも優しい教頭先生。頷き、何の用だろうと玄関の扉を開けた。
「教頭先生、お早うございます。どうしたんですか?」
笑顔で対応する。
「お、お早う。神凪さん……。あのね?あなたに『卒業証書』を持ってきたの……」
その言葉を聞いた心結は、悟った。
教頭先生はいつも気に掛けてくれて優しかった。しかし、校長先生は厳しかった。半年しか学校に来ていない生徒を卒業式に出したくなかったのだ。例え、多額の寄付金をしている家のお嬢様でも……。大半の生徒が心結を覚えていない。だから、いてもいなくても同じだと判断されたのだ。
その瞬間、心結の視界は真っ白になった。
「か、神凪さん?!」
「心結?!」
教頭先生と母の叫び声が、遠くで聞こえた。だが、心結の心はズタズタ。死ぬならば、今死んでしまいたい。そう思い、意識を手放した……。
━━偶然か否か、桜の花びらがひとひら、哀しげに心結の頬に落ちた
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