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クリスマスから始まって、冬の行事というものには、終わりが見えない。どれも一般的行事として、世間には根付いていて、街を歩けば、立ち並ぶ店はその行事ごとの商品へと、力を注いでいた。
それはコンビニ業界も例外ではなく、後少しでやってくるバレンタインのために、目立つ位置へとチョコレートを並べて、売れるときを待ちわびていた。
しかし、バレンタインはホワイトデーと違い、あまり売れ行きが良くないのが現実であった。バレンタインチョコは、コンビニよりデパ地下などで買うことの方が多いのか、この店では毎年目立って売れることはない。
しっかりと準備をして臨む人が多いのか、バレンタイン当日に慌てて来店する見込みも少なかった。
毎年のことながら、店長である名坂昌己は内心溜息ものであった。
「余ったら、店長に義理チョコで買ってあげますね」
あまりにも売れないバレンタインチョコを見ながら落胆する名坂を見て、バイトの高崎凪紗がにこにこしながら言う。大学生の彼女は、週二回のシフトながら、笑顔がかわいいという理由から、なかなか評判のいい子であった。
「いや、気をつかわなくてもいいよ。ありがと、高崎さん」
「お世話になってるからと思っただけなんですけどねー」
笑顔を崩さずに、快活に喋っている姿を見ていると、不思議と名坂の心も癒される気がした。
「あ、バレンタインが近づいてるってことは、『アレ』の時期ももうすぐってことじゃないですか。怖いですね、店長」
突然ではあるが、何となくどこかで出る気がしていた話題に名坂は苦笑を浮かべる。凪紗には悪気などないだろう。ただ純粋に心配しているだけなのだろうから。
コンビニの店長である名坂には、長い間彼女がいなかった。いや、生まれてから一度も、恋人という存在がいたことがない。
その状態で、バレンタインを送る男たちにとって、ある意味幸せで、ある意味戦慄する事件が多発している。
ある年に突然始まったその事件は、未だに解決する気配がなく、毎年バレンタイン前の新月から、バレンタイン後の新月までチョコレートの彫像を作り続けるという奇怪なものだ。ただのチョコレートの彫像ではなく、人間をチョココーティングした悪質極まりないものではあるのだけど。
「彼女がいない男がみんな死んでるわけじゃないから、僕は大丈夫だよ」
「でも、やっぱり怖いですよ。いくら幸せそうな顔で死んでるからっていっても、殺されてるんですよ。早く解決すればいいのに…」
毎年増え続ける奇怪な死体を、日本の警察が野放しにするわけはなく、捜査本部を立ち上げて、大掛かりな捜査を行っている。しかし、完全犯罪といわれるほどに、犯人に繋がる手掛かりは見つかっていない。
さらに、ネット上では、「バレンタインのナイトメア」という怪談として、非常に有名になっていた。どうせ死ぬなら幸せな思いをして死にたいという発言をする人間が現れ、バレンタインのナイトメアに会いたいというつぶやきが目立つようになるなど、年々ファンを増やし続けている。
「バレンタイン、早く終わればいいんですけどね…」
過熱するバレンタインのナイトメアの話題の中に、このような意見は埋没していくのだろう。
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