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「店長が来ないんです。連絡もつきません」  夕方のバイトが名坂の両親に連絡してきた。  何かあったときの緊急連絡先として、名坂がメモを貼っていたのだろう。名坂に任せてはいたが、オーナーはその両親であったから。  親から与えられたとはいえ、コンビニを成長させようと努力していたのだ。残念ながらあまり成果にはつながっていなかったが、出勤時間より早く顔を出し、清掃などに積極的に取り組んでいた。 「やっておいて」と人任せにせず、自ら行うことにより、従業員も信頼し、ついてきていた。店長がやるなら、自分もやろうかなという空気があったのだ。  そんな名坂が連絡もよこさず、店にも来ないことが予想外であったのか、バイトはおろおろするばかりであった。  いきなり呼び出すのだから、なかなか見つからなかったが、何とか代わりのバイトを見つけることができたのは、名坂の努力の賜物かもしれない。  その間も何度も携帯へ連絡してはみたが、コール音が響くのみ。  何かあったのではないかと心配になり、名坂の部屋へと足を踏み入れた。かなり頑張っていたから、少し疲れが出て、倒れているかもしれない。  しかし、もう手遅れであった。  真冬なのに、なぜか冷房が入れられている室内で両親が目にしたものは……。  チョコレートの彫刻と絡み合う、チョコレートコーティングされた名坂の姿であった。冷房の中であったためか、チョコレートは溶けておらず、まるで芸術作品のようだ。  しかし、彫刻の相手は男である。幸せそうに、男と絡み合う名坂の姿を、両親は直視することなく、部屋を出ていった。その瞳には、どんな感情を秘めていたのだろうか。  バレンタインのナイトメアは今までチョコレートコーティングした遺体だけを残してきた。そのため、この遺体は非常に珍しく話題性があったため、大きく報道されることとなった。  名坂が店長をしていたコンビニには、一時的にナイトメア事件のファンが押し寄せたが、常連にはその遺体が受け入れられず、客が激減。ほどなくしてひっそりと閉店していった。
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